なぜか技術書じゃなくて、アニメ業界の本とか読んでた。アニメ業界のPJの進め方、みたいな興味で。
畑違いだけど、読んでて結構面白かった。製造業といい、他業界の本は読んでて面白いですね。
佐藤好春と考えるキャラクターとアニメーションの描き方
本来見たほうが良いのは美術学生さんや専門学校生さんかな。端的だが、絵描き屋さんなら些細なアドバイスは目玉ではないだろうか。絵描きさんってすごい観察力とノウハウで、すごいなって思う。
素人から言うと、この本は資料で感動してしまう。というかそれ目的で買った。
「魔女の宅急便」などの原画の数々が普通にあるのは勿論、「ナンとジョー先生」「ロミオの青い空」の資料があるのが個人的にドツボ。
佐藤さんの絵は優しさに溢れる絵で本当に好きだ。最新作は神戸製鋼のPRアニメーションで、地味に必見。スタッフ、面白いですよ。 この本も優しさと情熱に溢れていて、すごく面白かった。
この人ももう大ベテランだし、フジテレビは優れた子どもを描けるアーチストが引退する前に世界名作劇場を復活させたほうが良いね。 母と子のフジテレビに原点回帰するんだ。社長は清水Pだし。
プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括
シンエヴァのPJを反省会するという非常に興味深い本。アニメ業界がレガシな家内制手工業、というイメージを根本に打ち砕いた、すげえ勉強になった一冊。
この本での大発見は、「庵野さんはメチャクチャ民主的で管理職向けのタイプ」であったということ。
なにせこの本の中で鈴木敏夫P自身が独白してるのが真理だと思っていて、宮崎駿や高畑勲という人は、非常にアーティスティックで独善的な方法でことを進める昭和型のオジサン、という人に対して、庵野さんって結構、いま風の考え方も取り入れられるセンスの持ち主で、チーム型の仕事を心得ているんですね。モチベーターとしての能力も非常に高いようです。
意味不明な変人、というイメージとは全く真逆の、作家視点から指示出しがビックリするくらい明確にできる人なのです。これは前後の本にも掲載されている絵コンテで比較できて(すっげえ抽象的なんですね、と。エヴァの資料のそれはしっかりしてるんです)、メールの文面から見て取ることができます。
この「カントクのメールを載せる」というコンテンツがメチャクチャ面白くてね。この本の一番価値あるところじゃないかな!
あと、AIとかの考え方もよく知っていて、実に中庸的な考え方。つまりどこの会社によくいる「昭和オジサン」タイプじゃなく、クリエイター的な権利がどうこう、みたいなタイプでもなく、きちんとその機能とメリデメを理解をしてるんです。ビックリするくらい真逆な考え方の持ち主(宮崎さんなんかは「プリンターが動かねえ?叩けば直るんだよ!!」って映像資料で言ってるからね笑)。多分、別の才能があっても別の業界で良いタイプの管理職になって、やがて社長になるべき人だったんだろうね。
庵野監督の意図としては、「絵コンテ主義を脱却して、プリヴィズからのラインから積極的にメンバーに意見を出させ、クリエイティブなものに磨きをかける」という発想です。「予測不可能性に面白いものを作る」と発言していますが、工程自体にはメチャクチャ合理的な管理してるんです。これ興味深い所。これはシステム業界なら、「ウォーターフォール的な戦略よりアジャイル的な進め方をオープンに進めて、品質を高めたい」って考え方ですよね。すごくいい。
庵野さんってちゃぶ台返しもする決定はしますけど、それが良いって考え方は持ってないんですよ。どうもNHKとかでやってるドキュメンタリーには作為が結構入ってそうで。意外と理にかなった修正をする人なんですね。一方で、ジーアックスの鶴巻監督は「80点を90点にするには、土台を崩すしかない」「スキルに応じた修正指示のバランス(自分でやってしまうか、任せるか)」をものすごく意識してるみたいです。この発想は中々面白いですよ。普通、「80点を90点にするには、10点上げれば良い」って考えますからね。クリエイティブにはそれが通用しない、というロジックですが、別のことでも意外と通じるかもしれない、そんな仕事の進め方の発想が出てくる人、そんなにいないんじゃないかな。下の人間に「10点上げなさい」って言ってもダメ、ってことなんです。こういうことができるのは、上の人間が自分も手を動かせる、介入できる、ということもあります。手を動かす瞬間を持つようにしている、ということのようです。
すごい面白いことに、Slackで面白そうな情報や素材を見つけたり、シーンを作成するうえでの資料を自由に投稿して良いチャンネルがあり、庵野監督自身が一番投稿していたそうです。つまり、Mgrが一番情報収集を怠らず、スタッフのクリエイティブに活かそうとしていた、という気風が見て取れます。また、アンケートを非常に重視していて、「自分の意識と世代や性別での感覚にズレがないか」ということを頻繁に行っていたそうです。非常に考え方がオープンですよね。
そしてそして。アニメーション業界はそうなのかもしれないのですが、非常に面白いのはWBSがもう、カット単位で綺麗に、細かく作られてるんですよ。結構キレイ。それが1000とか超える、ってだけで、そのへんの標準化をしっかりしてるのです。
システム系のツールもビックリするくらいモダンです。SlackとConfluenceの管理とか、SIerびっくりの中々に考え抜かれています(開発会社なら当たり前だろうよ。。。)。整ってるなー、いやあ、実に整っている。Confluenceは頻繁に更新され、65000ページを作成したそう。
いやあ、なぜシステム業界はこれが出来んのでしょうか。なにはともあれ、刺激になる本です。
アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本
先輩がOJTしてくれるようなイメージの本でしたね。
同じガイナックス派生でもこうも違うのか、という(笑)、というかこれが普通なんやろな、みたいな雑さも伝わりますし、闇も察することは十分にできます(笑)
しかしながら、今やっている仕事と中々通じるものがある本です。つまり、アニメ業界でも「情報はHowばかりであり、PM的職種ではWhyを正確に言語化し、伝達し、(ときに無理やりこじつける)のが仕事」ということです。「理由?そんなもんねえよ!」と思うのを、掘り当て、理解し、AさんからBさんに伝えあげるというお仕事ってこと。
クリエイティブ業界ってのは、結構それはそれで悪い噂をよく聞きますが、人依存なのでやっぱ、そのあたり実務面少しはまともですよね。コミュニケーションや研修とか、ホウレンソウの「報告」って大切だよね、ってことが伝わってくるんですよ。多分、現実の闇はすごく伝わってくるんだけど、この本に限らずアニメ業界とシステム屋さんの、「人」への意識の差異よね。アナログとデジタルの違うもあるのかな。そこは素晴らしいし、見習う所、色々あるんじゃないの、って思いました。
なんせ、作業道具・環境やお菓子、机の配置、メンバーの体調という話が出ているのは面白いことです。普通の会社なら総務や管理部がやりますが、まあ大事だよね。 全くこんなこと眼中がない業界があるそうですよ。
いやあ、なぜシステム業界はこれが出来んのでしょうか。(大事なことなので2回言った)